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まなびストレート!衛藤芽生ちゃん萌えスレ@大生避難所

1 :学生さんは名前がない :2008/05/24(土) 21:35 ID:CC0ZAb.s
がくえんゆーとぴあ まなびストレート!オフィシャルサイト
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StarChild:がくえんゆーとぴあ まなびストレート!在籍者
http://www.starchild.co.jp/special/manabi/registred.html
がくえんゆーとぴあ まなびストレート! - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%8C%E3%81%8F%E3%81%88%E3%82%93%E3%82%86%E3%83%BC%E3%81%A8%E3%81%B4%E3%81%82_%E3%81%BE%E3%81%AA%E3%81%B3%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%88!

>衛藤芽生 ETOH Mei
>一見クールだが、負けず嫌いな女の子。
>真面目で努力家だが? ゆうずうが効かないことも。
>大人びた考えを持ち、まなび達の頼れる存在。
>むつきとは中学校からの仲。
>一人っ子。


◎前スレ
まなびストレートの衛藤芽生たんは黒髪おっぱい
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/campus/1208783547/l50

101 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/08/01(金) 07:05 ID:Uez-8T2MWwV2
用事があるのか、それともまた寝るのか、めぇちゃんは自分の家へと戻っていった。
俺は俺で、そのまま寝てしまうのは何なので、しばらくバットを振ってシャワーを浴びてから
いったん休憩して朝食を食べて、それからまた素振りをしようと計画を立てた。

「しかしむっちーと勝負か…」
挑まれたからには俺も本気で臨ませてもらうつもりだ。
実際むっちーは女の子だが、球威を見た限りではそうそう侮れたものではない。
半端な気持ちや準備でいけば、間違いなく瞬殺される。それにこっちにはブランクがある。
一日や二日の努力でその分を埋められるとは端から思っていないが、だがやるとやらないとでは大きく違う。
今日から明日の夕方―勝負の直前まで、できることは全てやり遂げて
その上で彼女との勝負に臨もう。俺が今すべきことは、ただそれだけだ。

「ふんっ!…ふんっ!……」
これでもない、これでもないと、一振りする度に心の中で呟く。
しかし確実にスイングは良くなってきている。この試行錯誤が楽しくて、昔は何本でもバットを振れた。
今こうしてバットを振って、昔の気持ちに戻りつつある。そう、俺はこんな気持ちで、もっと野球がしたかった。

102 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/08/02(土) 17:30 ID:Uez-mLOF.7jY
「ふんっ!…ふんっ!……」
昨日から今日のこの時間まで、一体どれだけバットを振っただろうか。
いちいち数えていないので明確な数字はわからないが、それより何より
すっかり皮が剥けて見るからに痛々しくなった手の平が、数字以上のものを物語っていた。
実際、昨日は午前中で手の平の剥けるところは全て剥けてしまい、そのまま振ると痛かったので
包帯を巻いてなおも振り続けた。結局皮が剥けた場所からは血が出て、解く時に一番痛い思いをしたわけだが。
今日は朝方に物置を漁って見つけたバッティング用の手袋を嵌めて、少し軽めにスイングしている。
手袋を嵌めたおかげで多少手の平の痛みは軽減したものの、だからといって全力で振り続けるとまた傷口が開くし
昨日から素振りをしてようやくバットの重さを感じなくなった今、今度はゆっくり力を入れずに振って
改めてスイングのフォームを確認しようと思い、今それを試みているところだ。

昨日から今日までという非常に少ない時間でここまでスイングを作り上げることができて
俺はひとまず満足だった。あとは30分後に控えたむっちーとの勝負を迎えるのみである。

103 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/08/02(土) 17:32 ID:Uez-mLOF.7jY
太陽がやや西日になりつつあり、家の周りの風景を眩しく照らす。
もう夏至を過ぎて一月以上たつが、さすがにまだこの時間は十分明るい。
「さて、そろそろ行かなきゃな」
裏の倉庫にバットを置いた俺は、いったん自室に戻って外出する準備をしてから再び外に出る。

「おぅい、トリーズナー」
珍しく親父に声をかけられる。外出の際に言葉を交わすことは、もう滅多になくなったのだが。
「なに?」
「どこ行くんだい?お前ここ最近よく徒歩でどっか行っちまうが…」
「ほんの野暮用だ。話はそれだけ?」
「そういや昨日からこっち、日がな一日バット振りっ放しだったな。野球でもやりに行くのか?」
「まあ、そんなところだよ」
「へぇ。高校で野球辞めて以来、あんなに野球を毛嫌いしてきたお前がねぇ。
ま、その様子じゃ退くに退けない場面を迎えてるみたいだな。余計な詮索はせんから、とにかく全力でぶつかって来い」
「ふっ、言われるまでもないさ…」
それ以上、互いに言葉はなかった。かつて野球人だった者同士、言葉は要らなかったのだ。
あの頃と同じ、鋭い目付きになった俺は、無言で家の門を出て行った。

104 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/08/02(土) 18:01 ID:Uez-mLOF.7jY
自宅から中学校までは、歩いて行くと約20分ほど。
中学校までの道中、犬と散歩している人、ウォーキングやランニングをしている人、自転車に乗っている人など、
様々な人とすれ違った。中学で野球部にいた時代、そういう人たちとすれ違う度に挨拶をしていた。
そうするよう監督から教育されていた。お陰で俺たち野球部員は町の有名人だったし、そんな自分たちを誇りに思っていた。

「遅れてすまない。二人とも早いね」
中学校に着くと、むっちーとめぇちゃん、二人は既に俺を待っていた。
てっきりむっちー一人が待っているものかと思っていた俺は、めぇちゃんに早く来た理由を問うてみる。
「ちょっと上原さんの投げる球を見てみたくてね」
どうやら奴さんも、準備は万全のようだ。これはいい勝負が期待できる。
「トリーズナー君、上原さんを女だと思って甘く見ない方がいいわよ」
「初めからそのつもりさ」
「そう?油断すると、三球三振かもしれないわよ」
「そうならないために、俺もそれなりの下準備をしてきた」
俺とめぇちゃんが舌戦を繰り広げている中、むっちーは黙って佇んでいたが、
やがて地面に置いていたグローブを取ると、めぇちゃんの前に出てきた。

105 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/08/02(土) 18:11 ID:Uez-mLOF.7jY
「お前らそこまでだ。うちらはお喋りをするためにここに集まったんじゃない」
言いながら、グローブに収めていたボールを手に取り、むっちーは利き腕をぐるぐる回す。
よく見ると彼女はご丁寧にユニフォームを着て来ている。気合いの入り方が、いつもとは違うようだ。
「トリーズナー、そこにバットがあるだろ。それを持て」
むっちーが指差した先に、確かにバックネットに立て掛けられたバットがあった。
言われた通りそれを持ってバッターボックスに立つと、彼女も無言でマウンドに移動した。

「昨日めぇから聞いてるだろうが、今改めてうちから告げる。トリーズナー、勝負だ」
マウンドに仁王立ちになり、真剣な表情で、むっちーは俺に対し堂々と宣言する。
「その勝負、受けて立とう」
対して俺もまた、彼女にバットを向けながら、言葉を返す。
睨み合う二人の眼。今、誰であろうとこの二人の間に割って入ることはできない。
めぇちゃんは不安そうな表情をしながらも、その様子を静かにベンチで見守っている。
やがてむっちーがマウンド上のプレートに右足を置き、投球動作に入る。
俺は背筋を伸ばし、大きくバットを構える。さあ、尋常に勝負だ!

106 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/08/02(土) 18:17 ID:Uez-mLOF.7jY
一打席勝負の一球目。
大きくワインドアップしてからいったん体を屈め、そして左足を前方に踏み込んで
素早く利き腕を一回転させ投球するむっちー。超高校級レベルの鋭い球が繰り出される。
(ブン!!!)
俺のバットは空を切った。ストライク。
内角寄りのやや高め、肩口下に決まったライズボールは、振り出したバットの上を通過した。
身長の低い俺はこの内角高めが最も不得意であり、現役時代、よくこのコースで三振を喫していた。

「どうだトリーズナー、うちの球は速いだろ!!」
気合い十分のむっちー。左手に嵌めたグローブをこっちに向けて高らかに言う。
しかし当の俺は、その言葉を受けて思わずニヤリと笑みを浮かべてしまう。
「何かおかしいか」
「いや、別に」
なんだろう、この気持ちは。あの球を見て別段驚いたわけでもなく、
むしろどちらかというと残念な思いが残っている。今の微笑は苦笑いだったのだろうか。
初球、少し大振りになってしまったことを反省し、グリップエンド一杯に持っていたバットを短く持ち直す。
再びむっちーは投球動作に入り、その利き腕からまたしても剛速球が繰り出された。

107 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/08/02(土) 18:24 ID:Uez-mLOF.7jY
(カキンッ!)
アウトコース低めに決まった二球目は、カットしてバックネットにぶつかった。ファウル。
これでツーストライク・ノーボール。早くも後がなくなってしまった。

「あとストライク一個でうちの勝ちだぜ。どうするよ、トリーズナー?」
「お喋りするためにここに来たんじゃないだろ。さあ、早く投げろよ」
「ちっ、言われなくたって…!」
言いながら、早いテンポで三球目を投じるむっちー。
外へ逃げていく変化球は、ぎりぎりストライクゾーンをかすめることなくボール球となった。
「危ない危ない、あわやバットが出かかった。…むっちー、今のストライクでもいいよ」
「ふざけんじゃねぇ!ボールだ、ボール!!」
ツー・ノーから三球勝負で変化球を選んだのだろうが、甘い甘い。
確かにハーフスイング気味になったのは事実だが、それはその球をカットする目的で出しかけたもの。
最初から変化球が来るのは予測済みだったのだ。…最もカットするまでもなく、ボール球になってくれたが。
さあ次は何が来るだろうか。…追い込まれていながらも、少し楽しくなってきた。

108 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/08/02(土) 18:30 ID:Uez-mLOF.7jY
四球目。
アウトコース低めぎりぎり。しかし今度は直球だ。
(カキィン!!)
バットを短く持っているため外角へのリーチはあまりないのだが、
それでもしっかり腕を伸ばして叩き付けたところ、ファウルだったもののなかなかいい感じで当たってくれた。

立て続けに五球目が投じられる。一球目と同じ内角高めに直球が決まる。
先述の通り、俺はこのコースに特に弱い。外の低めの直後、いきなり肩口に放られたため
びっくりしてバットを出すことができなかった。
「…ボールだな」
「えっ…?」
「審判にもよるが、お前の身長じゃ今の球は大抵ボールになる」
「いいのかい、ボールにしちゃって?」
「へっ、これで終わりじゃつまんねぇよ。勝負する以上、もっと楽しまなくちゃな」
言いながら、マウンドの足を踏み出す部分を削るむっちー。
素直にこの勝負を楽しみたいという彼女の思いが、今の判定から伝わってきた。
しかし俺からしてみれば、今ので三振になっていたところを、わざわざボール球にしてくれて有り難い限り。
カウントはツー・ツー。これで俺が勝つチャンスも大きくなってきたというものだ。

109 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/08/02(土) 18:38 ID:Uez-mLOF.7jY
今の言葉からすると、むっちーは勝ちの「スタイル」に拘っているように見受けられる。
変化球をどれだけ持っているかは知らないが、おそらく単純に打ち取ろうなどとは考えていないはずだ。
早くも六球目を投げようとするむっちー。俺に考える隙を与えないためか、やはりテンポが早くなっている。
彼女の戦略上、下手な小細工は考えられてはいないはず。となるとやはり…。

(カキィィン!!)
内角低め、やや甘く入った直球を、俺は引っ張った。
打球はファウル。しかしライナー性の当たりで気持ちよく飛んでいった。
むっちーの方を見やると、「しまった」といった表情で、再びマウンドを削っている。
思った通り、失投である。彼女には幸いしてファウルにはなったものの、
あれがもう少し真ん中に入っていたら、俺の打球は確実に外野のフェンスを越えていた。

ここまで来て、ひとつ、気になることがあった。
一球目の時に比べると、むっちーの投球テンポは次第に早くなってきているのだが、
どうも意図的にそうしているようには感じられない。もしかすると、彼女は投げ急いでいるのではないか?

110 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/08/02(土) 18:41 ID:Uez-mLOF.7jY
試しに軽い気持ちで、七球目を迎える。
直球で押してくるむっちーに珍しく、この場面で変化球が投じられる。
球はゆっくり落ちていくものだったが、結果は下に外れてボール。ツー・スリー。
フルカウントとなって向こうにも後がなくなった今、もはやむっちーは直球を放るしかない。
案の定八球目は、外角高め、ボール気味の直球。念のため、カットしておいた。

「はぁ……はぁ………」
中腰になり、腕で額の汗を拭うむっちー。
俺が予想した通り、彼女は投げ急いでいる。実際そのせいで、まるで制球が定まっていない。
俺を相手に、どうしてそんな投げ急ぐ必要があるのだろうか?…俺にとっての唯一の疑問は、それだった。

考える暇もなく、九球目が投じられる。
やはりまた直球、コースは外角低め。コース的には悪くはないが、しかし。
(カキィィン!!)
打った瞬間、はっと気付いた。
球が伸びていない。一球目の時と比べて、球が落ちてしまっているのだ。
野球用語で言う、いわゆる「棒球」というやつである。原因はいろいろ考えられるが、
とにかく彼女が投げ急いでしまっているのが根本の原因だろうと、その時の俺は分析した。

111 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/08/02(土) 18:52 ID:Uez-mLOF.7jY
九・十・十一球目と、同じように直球でファウルが続いた。
正確に言えば、俺がファウルにしてあげていたといっても過言ではないだろう。
思うような球を放れず、疲れだけが溜まっていくむっちー。一球一球、全力で投げているため
中腰になった彼女の肩は荒くなった呼吸で上下している。しばらく投げない時間が続いた。

「どうしたの、むっちー。早く投げないの?」
「はぁ……はぁ………」
「高校野球で惨めな思いをした元野球人相手に、ここまで苦戦して予想外だったかな?」
「………」
「こんな俺を打ち取れないようじゃ、君もまだまだだね」
「!…うるせぇ……」
「実際、まるで投球がなってないからねぇ。相手が俺じゃなきゃ、もっと酷いことになってるよ。ははは」
「うるせぇんだよ!!!」
言いながら、むっちーは渾身の直球を投じた。しかし…。

(カキィィーン!!!)
その響きとともに、レフト方向に高く打球が舞い上がった。
「あ……ああ………」
打球を目で追いかけながら、むっちーはその途中で膝をつき、うなだれてしまう。
打たれたショックで我を忘れ、空ろな眼をする彼女の表情。自らの負けを確信した瞬間だった。

112 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/08/02(土) 18:54 ID:Uez-mLOF.7jY
「ふぁ〜る」
ふと俺がそんなことを言う。こっちから見てわかったが、実際打球はファウルだった。
打球はレフトフェンスを越えたものの、フェアゾーン側には落ちていかず、
ファウルゾーン側へと落下していった。ぎりぎりファウル、である。

「…むっちー」
「………」
呼んだものの、当の本人はファウルである事実をまだ認識できておらず、呆然としている。
「おい、むつき!!!」
「…は、はいっ!?」
呼び方を変え、ややドスを利かせて怒鳴ったところ、ようやく気付いてくれた。
「な、何ですか…?」
ちょっとこわい一面を見せてしまったせいか、むっちーはすっかり萎縮し、敬語口調になっている。
ひとたび自分に自信がなくなると、この子はこんなになってしまうのか。…思いながらも、俺は言葉を続ける。
「今のお前は、全部ダメなんだよ!!」
「えっ?」
「投球テンポ、軸脚のタメ、左足の踏み込み、腕の振り…全てにおいてダメ!
慌てず急がず、呼吸を整えて、自分の投球をしっかり頭にイメージしろ!」
「そんなこと急に言われたって、うちは…」
「できるよ、お前なら!」
力の限り叫ぶと、むっちーははっとしたような顔をして、それから静かに目をつぶった。

113 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/08/02(土) 18:55 ID:Uez-mLOF.7jY
しばらくマウンド上に佇み、目をつぶっていたむっちーは、やがて再び目を見開く。
その時の彼女の表情は、先程とは打って変わって違っており、全身からは余計な力が抜けているような気がした。

「トリーズナー先輩」
「!」
俺のことをそう呼んでくれたのは、いつ以来だろうか。
それもさることながら、いつもとは全く違うむっちーの雰囲気に、俺は体を強張らせる。
「次の一球で、あなたを三振にします」
「面白い、望むところだ!!」
相構え合う二人。むっちーは大きく、しかしてゆっくり投球動作に入り、
俺はやがて来る剛速球を打たんとすべく、肩の力を落としてバットを構え、集中する。
緊張の一瞬。二人の本気が、今まさにぶつかり合う。
むっちーがボールを投げ、俺がそれを打つためバットを振った。

(ブン!!!)
今までにない、物凄い直球だった。コースはど真ん中だったが、驚きと想定外で
俺のバットは空を切ってしまった。ストライク、空振り三振。俺の負けが決まった。

114 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/08/02(土) 18:56 ID:Uez-mLOF.7jY
「やったぁっ!!」
真っ先に嬉しがったのは、むっちーではなく、ベンチで観戦していためぇちゃんだった。
彼女は拳を突き上げてひとつジャンプすると、むっちーのところに駆けていき労いの言葉をかける。
「よかったわね上原さん!あなたの勝ちよ!!」
「………」
勝利を祝福するめぇちゃんとは裏腹に、むっちーは無言で、無表情で佇んでいる。
「どうしたのよ、嬉しくないの?」
「…………」
「トリーズナー君に勝ったのよ。本当やるわね、あなた」
「……勝ってない」
「えっ?」
「勝って、ないんだ!!」
そう言うと、むっちーはめぇちゃんを突き放し、ソフトボール場の外へ駆けていってしまった。
「あっ、ちょっと上原さん!!」
追いかけようとしためぇちゃんの行く先を、俺が腕で遮る。
「ちょっと何するのよ、退いて!」
「俺が行く」
「えっ」
「元はといえば俺とむっちーの問題だから、最後は俺が何とかするって、言っただろ?」
「確かに言ってたけど、でも…!」
「たまには俺も、あの子にかっこいいとこ見せてあげたいからさ…///」
「トリーズナー君…」
それ以上、めぇちゃんは俺を止めることはなかった。

115 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/08/02(土) 19:10 ID:Uez-mLOF.7jY
ソフトボール場を出て、校舎内をくまなく探す俺。
おそらくまだ中学校の中にいるだろうが、果たしてどこにいるんだろうか。
携帯は繋がらないから、直接見つけて話すしか方法はない。まったく大変なことになってしまった。

ふとビオトープの中に入ってみる。校舎内の他の場所は全て探したから、いるとしたらここしかない。
数分そこでむっちーを探すと、案の定小屋の裏でうずくまっている彼女を発見した。
「むっちー」
ぴくっ、と俺の声に対して体が反応したが、言葉を返してはくれない。
「むっちー、君の勝ちだよ」
「…先輩まで、そんなことを……」
「むっちー?」
「どうして先輩は、そんなに優しいんですか!?」
言いながら、むっちーは俺に縋る。
「優しいとか優しくないとか、そういう問題じゃないでしょ。俺が君に負けたのは事実なんだから…」
「そうじゃなくて、どうして負けたのに、うちにそんな優しくしてくれるんですか!?」
「別に俺はそんな優しくは…」
「先輩だって、負けたら悔しいでしょ?なのにどうして、そんな平然としていられるんですか…?」
勝ち負けに拘る性分のむっちーにとって、今の俺は悔しさを我慢しているように見えて忍びなかったのだろう。

116 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/08/02(土) 19:11 ID:Uez-mLOF.7jY
「俺はね、もういいんだよ」
「えっ?」
「俺は現役時代、力の限りを尽くして頑張ってきた。その結果が、あれだったんだ。
さっきの勝負だって、全力を出したさ。その上で君に負けた。とても清々しい気分だよ」
「先輩…」
「君との勝負で、俺の過去も自分の中で清算することができたかも、しれないね…」
「先輩…うっ、ううっ……」
両腕を俺の体に回し、胸に顔を埋めて涙を流すむっちー。
「先輩」という呼び方は、彼女が中学生の頃に俺をそう呼んでいた。きっとあの頃に心が帰っているのだろう。

「むっちー」
「何ですか?」
「その…俺のことは、トリーズナーでいいよ。敬語もいちいち使わなくていいし」
「そうですね…いや、そうだね。なんかうち、おかしくなっちゃった///」
「ふふふ。でも久々に昔のむっちーが見れて、俺は幸せだよ」
「さっ、さっきのは忘れてくれよ。思い出すと恥ずかしいから///」
「でもかわいい一面もあるんだね、むっちーには^^」
「えっ…」
俺のその一言を聞くなり、むっちーはすっかり赤くなって、下を向いてしまった。
かわいいと言われると、恥ずかしがる。その表情が、さらにかわいいものだ。

117 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/08/02(土) 19:12 ID:Uez-mLOF.7jY
「なあ、トリーズナー」
「ん?」
「その…なんかさっきからドキドキがおさまらないんだ」
言われてみれば、確かに俺たちはまだ抱き合ったままである。
「あっ、ごめん。つい気付かなくて…///」
言いながら、俺はむっちーから体を離そうとする。しかし、
「だめっ!!」
「えっ!?」
「まだ、このままでいて…///」
「むっちー、どうしたの…?」
「うちにもわからない。ただ、なんか胸が高鳴って、顔が熱くなって…」
むっちーの言う通り、彼女のほっぺたは赤々としている。
何となく展開が予想されたが、次の瞬間、むっちーは決定的な発言をする。
「トリーズナー…キス、しないか……?///」
「!!!」
ごくり、と唾を飲む俺。ここまでくると言葉が出ない。
見つめ合う二人。先程の厳めしい表情とは大きく変わって、むっちーの顔は恍惚に満ちている。
どうしてこんなことになってしまったのだろう?…いや決して悪い意味ではないが、
さっきまで睨み合っていた二人が今は甘ったるい目で見つめ合う仲になるなんて…。

いい加減覚悟を決めた俺は、目を閉じて顔を近付けた。
二人の唇が、触れ合おうとしていた。

118 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/08/02(土) 19:14 ID:Uez-mLOF.7jY
「へぇ〜。かっこいいところ見せた結果がそれですか…」
いつからいたのか知らないが、いつの間にかめぇちゃんが横にいた。
「め、めぇちゃん…」
「めぇ!こっこれは誤解だ!うちらはそんな関係じゃ…///」
「あら、いいのよ続けてて。私はもう帰るから…」
「こらめぇ、待て!」
「何よ、どうせ私がいたら邪魔なんでしょ!?」
「だから誤解だって言ってるだろ…!!」
眉間に皺を寄せ、めぇちゃんを睨み付けるむっちー。すごい表情だ。
「わ、わかったわよ!わかったから!!」
「今度はめぇ、お前の根性を叩き直す必要があるな…」
「えっ…!?」
「さあこのグローブを嵌めて、あそこに立て!これから千本ノックだ!!」
「いやぁ〜!!!」

それからボールが見えなくなるまで、むっちーとめぇちゃんの特訓は続いたとさ。
めでたしめでたし〜。


「……ちょっと、どこが…めでたい、のよ…?早く交代しなさ………(ガクッ」

119 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/09/06(土) 13:10 ID:KypbFeus
9月の初旬、まだ夏の暑さが続く土曜日の昼下がり。
先月、8月の終わり頃から雨が降ることが多くなり、気温もそれなりに低くなったが、今日は晴れてちょっと暑い。
早くも長雨のシーズンに突入するかと一時は思われたが、どうやらそれもまだまだのようだ。

「う〜ん、資料がないなあ・・・」
近所の町立図書館で本棚を見て回っている俺は、ふと呟く。
先月に入ってから取り掛かった卒論作成は、時がたつにつれて作業がぐだぐだになってしまい、結局まだ殆ど資料を集められていない。
原因は卒論のテーマにある。歴史科所属の俺は、自分の住んでいる町の歴史に照準を絞ってこれまで資料集めをしてきたが、
いかんせんこの町は歴史的にマイナーな地域なため、どこの図書館や歴史資料館を探しても町に関する資料はあまり見つからなかった。
今日訪れている町立図書館は、最初に資料を探しにやって来た場所だから、資料の内容や数は多寡が知れている。
その上で再び来た理由は、単純に手持ち無沙汰だったから。実際、新たな資料が見つかる可能性はほぼ皆無に等しいが、
それでも行動は―――資料を探す行動だけは最低限取ろうと、体が無意識に反応したのだろう。
まあその実、案の定どうでもいい本ばかりを本棚から取り出してはパラパラとページをめくって流し読みしているばかりなのだが。

120 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/09/06(土) 13:26 ID:KypbFeus
「もういいや、これでも読んで一休みするか」
言いながら手に取ったのは、雑誌・新聞コーナーにあった今日付の朝刊。
きょうびニュースなんてパソコンや携帯からインターネットに繋げばいくらでもチェックできるのに、なかなかどうしてこう頑なに紙媒体に頼る人がいる。
きっとそれは、今俺が取り組んでいる卒論と同じで、情報の資料性を高めるための営みなのだろう。
ネット上で取り上げられる情報は、その一語一語が、所詮はデータに過ぎないから、古い情報は次々と消去されていく。
対して紙に書かれる情報―すなわち新聞や書籍、文書や記録などは、それ自体を燃やしたりしない限り、ひとつの「文章」としてしっかり残り続ける。
何十年、果ては何百年と時を費やしてもなお残り続けているそれらを、まさに「資料」と呼ぶ。資料とは、かつての情報を伝達するための手段だったのだ。

「ここ、いいかしら?」
例のごとく、頭の中でぶつぶつと呟きながら新聞を読んでいると、一人の女性がふいに声をかけてくる。
俺が座っている座席以外にも、空いている座席はたくさんあるのに。まったく、何を考えているのやら。
「ええ、大丈夫ですよ」
しかし頭ごなしに断ってしまうとただの感じ悪い男になってしまうため、とりあえず無難にそう答えておく。
「ありがと」
やけに馴れ馴れしく返事をすると、女性は俺に対面する形で座席に座り、持っていた本を開いて読み始めた。

121 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/09/06(土) 13:37 ID:KypbFeus
しばらくそのまま、俺とその女性は一言も会話を交わさずに時間が流れる。
気まずいといえば気まずいが、ここでこの気まずさに負けて席を離れてしまったら、さらに気まずい思いをしてしまう。
新聞越しに女性を覗くと、読書に集中しているようでこちらのことはあまり気にしていない様子。
相手がそんな調子であれば、自分もそうするしかない。読んだところでいちいちニュースが頭に入ることはないが、
ここはひとつ相手が去るのを待とう。そう心に決めた俺は、とりあえずスポーツ欄を開いて大嫌いなプロ野球のニュースでも読むことにした。

「トリーズナー君、新聞読んでるなんて殊勝な心がけね」
「えっ!?」
どうして俺の名前を・・・。口に出そうとしたが、驚きのあまり出せなかった。
「何で名前知ってるんだ、って顔してるわね」
「はい。えっと、どちら様で・・・?」
「やっぱり忘れちゃったんだね。私の顔、見覚えない?」
そう言われたため反射的に女性の顔をよく目を凝らして見てみる。
「やだ、あんまりまじまじと見られると却ってリアクション取りづらいわ///」
「あっ、す、すいません///」
「で、私のこと思い出してくれた?」
「澤口有希先輩、ですよね・・・?」
「正解!よくできました〜^^」
女性は微笑みながら、2、3度拍手するジェスチャーを見せた。
その天真爛漫な笑顔を見るのは、いつ以来だろう。とても懐かしく感じる俺であった。

122 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/09/06(土) 13:42 ID:KypbFeus
「澤口有希」という名のその女性は、俺の中学時代の先輩である。
当時先輩は生徒会長を務めており、俺はそんな先輩の姿に憧れて、彼女の次の代の生徒会で会長を務めた。
ちなみにこのことはめぇちゃんやむっちーには未だ秘密にしている。俺と先輩の思い出は、良くも悪くも特別なものだからだ。

「まさかこんなところで先輩に会えるなんて、思いもしませんでした」
「私も。トリーズナー君、しばらく見ないうちに大人っぽくなったわね」
「えへへ、それ程でも・・・。つーか、もう大人ですから///」
「ふふ、そうだったわね^^」
何年ぶりだろう、こうして先輩と二人っきりで話すのは。
中学の頃は、毎日のように、こんなふうに二人でおしゃべりに明け暮れたものだ。
思えば先輩のお陰で、楽しい中学校生活を送ることができたといっても過言ではない。
それだけ俺にとって彼女は、特別な存在だった。本当に特別な―――。

「ちょっと外で休憩しない?」
読んでいた本をおもむろに閉じてから、先輩は俺にそう訊ねる。
「私のほうは、もう用事済んでるから。トリーズナー君は?」
「ああ。もともと暇だったから、軽い気持ちで立ち寄っただけなんで」
「ホントは私のこと、探してたんじゃないの?^^」
「いえ別にそんなことは・・・無くはない、ですけど///」
「そっか、お姉さん嬉しいなぁ^^
 とりあえず少し喉も渇いたし、ちょうど外に自販機があるから行きましょ」
というわけで、二人は一緒に図書館を出て行くのであった。

123 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/09/06(土) 13:50 ID:KypbFeus
出入り口横の自販機でジュースを買い、そばにあるベンチに並んで腰掛ける二人。
甘党な俺はいつものようにカフェオレを飲みながら、ジーンズのポケットから煙草を取り出し、1本を咥えるとそれに火を点ける。
「なに、いっちょ前に煙草なんか吸っちゃって。いつからそんな不良になったの?」
「不良って、俺はもう21歳です。喫煙して咎められる年じゃありません!」
「ふふ、冗談よ。私にも1本、ちょうだい」
「えっ・・・?」
意外な言葉に、煙草を口元へと運ぶ手が止まった。いつの間に先輩は、煙草を吸うようになったのだろう。
「何驚いてるのよ?今のご時勢、女が喫煙したって別におかしくないでしょ?」
「まあ、確かに。・・・はい、1本だけですよ」
「素直でよろしい^^」
俺が差し出したパッケージから、先輩は1本の煙草を摘み出す。おもむろに咥えてから、今度はライターを出して火を点けてあげた。

「うげぇ、6ミリってこんなまずいの?」
「はは、いつも1ミリばかり吸ってるとそう感じても無理はないですよ。
 ちょっと前までは10とか14とか、当たり前でしたけどね。俺の場合は」
「えぇっ!?あんた舌おかしいんじゃないの?」
「まあ男のほうが味覚が鈍感な分、煙草は強いものを吸う傾向がありますからね。
 それより先輩は、いつから煙草を・・・?」
さっきから心につっかえていたことである。先輩の言う通り、女性が煙草を吸ったって別に変ではないが、
あんなに健康的で快活だった先輩が喫煙者になっているなんて、どうも俺の中のイメージには到底そぐわなかった。

124 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/09/06(土) 13:54 ID:KypbFeus
「いつからだったかなぁ・・・忘れちゃった」
先輩の目は急に遠くなり、何か物思いに耽った顔をする。彼女は言葉を続ける。
「強いて言えば、男の影響だったのかな」
喫煙者の女性によくあるパターンだ。別に全部が全部というわけではないし、これといった確証もないのだが、
付き合っている彼氏が煙草を吸っている場合、結構高い確率でその女性も煙草を吸い始める。
共通の話題というか、共通の行為というか、女性というのは須らくそういったものを男よりも求める傾向がある。
好きな男に対しては、そういう思いもひとしおだろう。以前付き合っていた男が誰かはわからないし知りたくもないが、
とかく先輩はその男のことが好きだったのだろう。俺自身の心境は正直複雑だが、ここはそう思ったほうがきっといい。

「なに寂しそうな顔してるのよ」
「えっ・・・」
「憧れの先輩が口から煙吐くようになってて、幻滅した?」
「いえ別に。そうじゃなくて・・・」
「はっきりしないわね。それとも何、他の男に私を奪われて、嫉妬してるの?」
「違います!大体そのことは・・・」
言いかけて、それ以上口にするのをやめた。思い出したくない過去に、触れようとしていたからだ。

125 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/09/06(土) 14:00 ID:KypbFeus
「・・・まあ先輩、せっかくこうして再会できたことだし、明るくいきましょうよ^^;」
我ながら珍しく、一変して明るく振舞う。
無意識に自分自身をそうしてしまう程、俺の心は何かを必死で避けていた。
「ほら、昔のことなんか、もう忘れちゃってさ^^;」
「・・・うん、そうね。昔は昔、今は今、だもんね」
そう答えるも、どこかばつの悪そうな心境の垣間見える、先輩の表情だった。

「そうだ、トリーズナー君」
「はい」
「明日の夕方、何か予定入ってる?」
「何もありませんけど?」
「よかった。それじゃ明日の16時、S駅集合ね」
先輩の顔が嬉しそうな表情に変わる。
S駅とは、俺の自宅と図書館を一本の線で結んで、大体真ん中あたりにある駅だ。歩いてもそう遠くない距離にある。
「えっ、一体どうする気ですか、先輩!?」
「鈍いなぁ。とりあえず約束だよ、じゃあね!」
「あっ、先輩!」
嬉しそうな足取りで、先輩は駆けていってしまった。
そんな先輩を見て、呆気に取られる俺。気が付いたら吸っていた煙草は、かなり短くなってもう吸えなくなっている。
それを吸殻入れに投げ入れると、俺は無言のまま、またポケットから煙草を取り出し、1本を口に咥えて火を点けるのであった。

126 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/09/06(土) 21:23 ID:KypbFeus
21時。
パソコンと向かい合う俺は、キーボードを叩きながらひたすら卒論のプロットを作っている。
今日はもうどれだけの時間、こうしているだろう。指もだいぶ疲れてきた。
しかし俺は性格上、やはりひとたび何かに集中すると、ついそのこと一筋になってしまうものだ。
他のあらゆることがてんで駄目な分、一つのことに対する集中力は高いものを持って生まれたようだ。
これがもう少し、自分の人生に有効に生かせれば・・・しかし思ったところでなかなかうまくはいかないのが、人生である。

「はぁ〜、さすがに疲れた・・・」
言いながらパソコンの電源を消し、ベッドに寝転がる俺。
長時間集中していた頭脳は一気に弛緩し、俺は心地よいまどろみに耽っていった。


有希先輩は、数年ぶりに俺と会って、さぞ複雑な心境だったことだろう。
確かにあの人とは、色々あった。良くも悪くも、共通の思い出を作ることができた。
でも俺とあの人との間には、誰にも理解されやしない、悲しみがある。
その悲しみを胸に、二人は決別した。人生で最も堪え難い別れだった。
もうあれから、あなたとは会うことはない、話すことはないと、決めていたのに。
それなのに、どうしてあなたは、再び俺の前に現れたのですか。
どうして、あなたは―――。

127 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/09/06(土) 21:59 ID:KypbFeus
(・・・ズナー君、トリーズナー君)
夢の世界を彷徨っている俺を、誰かが呼んでいる。
もう少しこうしていたいのに、一体俺を呼び覚ますのは誰だろう。

(トリーズナー君、起きて)
「う〜ん・・・・・」
束の間の夢から覚醒する。
重たい眼を開けると、そこにはあの人の顔が、映ったような気がした。
「せん、ぱい・・・?」
「先輩?何寝ぼけてるのよ、早く起きなさい」
「あれ・・・めぇ、ちゃん?」
声の主は、俺が思い浮かべていた人ではなかった。
俺の体を揺すっていためぇちゃんは、少し離れて立ち上がると胸元に腕を組んで言う。
「また随分長い間ご無沙汰してたけど、まあこんな調子だと思ったわ」
目をこすりながら体を起こす俺。実際彼女と会うのは久しぶりだ。
「ちゃんと俺だって、やることはやってるよ。今日だって、卒論の資料探しに行ったし」
「どうせまた収穫がなかったんでしょ?」
「そ、それは・・・」
「ほら見なさい。あんたのやってることなんて、多寡が知れてるのよ」
さすがはめぇちゃん、といったところか。しっかり者の彼女の目はとても騙せない。
感心している場合ではないが、つい恐れ入ってしまう俺だった。

128 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/09/06(土) 22:03 ID:KypbFeus
「それでめぇちゃん、どうしたの?」
例のごとく、また俺のことが心配で来たのだろうが、それにしてはいささか急だ。
「どうしたって、別にそこまで大したことじゃないけど・・・」
「何か俺に頼み事?」
「まあ、そんなところね・・・」
めぇちゃんが俺に頼み事とは、これまた珍しい。果たして何なのだろうか。

「あのさ、明日二人でどこか行かない?」
「もしかして、デートってこと?^^」
「ばかっ、んなわけないでしょ!ちょっと野暮用に付き合ってもらうだけよ///」
軽い冗談を言っただけで、すぐに顔を赤くしてしまうめぇちゃん。
彼女の相変わらずなのを見て安心し、俺はクスッと笑った。
「でもまあ、あんたがそう思いたいなら・・・///」
「そう思いたいならって、どう思いたいなら?^^」
「うっ・・・んあーもう、デートって思いたいなら、それでもいいってこと!///」
「ふふふ。じゃあお言葉に甘えて、明日はデートってことで^^」
「わ、わかったわ・・・・・うぅ///」
それきりめぇちゃんは、顔を真っ赤にして下を向いてしまった。
本当にかわいいなぁ、めぇちゃんは。この子といると、全ての悩みを忘れてしまう。

129 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/09/06(土) 22:10 ID:KypbFeus
そう、忘れてしまっていた。あのことを、すっかり。
思い出した途端、俺ははっとして、それからつい浮かない顔をしてしまった。

「どうしたの、トリーズナー君?」
「いや・・・あのさ、めぇちゃん」
「やっぱり私とのデートじゃ、つまらないわよね・・・」
「そういうわけじゃないんだけど・・・明日は、やっぱ駄目だ」
こんな話をめぇちゃんとしてから、明日の有希先輩との約束を思い出して、後悔する。
あの時先輩が言っていたことは「本当」だ。反故にするわけにはいかない。
「ちょっと俺も、野暮用を思い出して・・・」
「私の用事は後回しにするから、一緒に行っちゃ駄目?
 トリーズナー君と、色々話したいこともあるし。手伝えることがあったら、それもするから」
「いや、俺の問題だから。一人で大丈夫だよ」
「どうして?さっきは一緒に行こうって言ってたのに。私に知られたくないことなの?」
「だから俺一人で十分なんだ、めぇちゃんは来なくていいんだよ!」
ついじれったくなって、怒鳴ってしまう。
それを聞いためぇちゃんは、嬉しそうな表情から一変、顔色を変えて、
「あっそう、なら勝手にしなさい!!」
厳しい剣幕で一喝し、部屋を飛び出していった。

130 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/09/06(土) 22:19 ID:KypbFeus
めぇちゃんが出て行ってから、部屋の空気が一気に静まり返る。
彼女と一緒にいると安心するし、話していていつも楽しい。精神的に救われているところも大きい。
あの子と話している時の俺は、きっといつもとは違うのだろう。心が躍っているのだろう。
こうして彼女が去っていってしまった時、つくづくそのことを実感する。同時に我ながら罪作りな男だと、自分を嘲りもする。

重い溜め息をひとつ吐いて、再びベッドに寝転ぶ。
確かにめぇちゃんは、俺にとって大切な女の子だ。男女という壁を越えて、同じ歩幅で付き合っていきたい。
でも今回の俺は、有希先輩を選んでしまった。かつて憧れ、稚拙な好意を寄せ、そして破局した女性を。
忘れようとしていた、忘れかけていたものが突然目の前に現れ、俺はそれについ引き寄せられてしまった。
先輩は俺に何をしようというのか。今更こんな男に、何を期待しているのだろうか。
しかし俺に何かをもたらそうとしていることに違いはない。淡い期待を心の奥底に押し込めて、
それでもひとまず会わなくてはならないと、先程決断してのこの結果というわけだ。

後悔先に立たず―――あれこれ思い巡らすより、自分の信じた道を進むほかはない。
めぇちゃんのことは、後でいくらでもフォローできる。それより今は、先輩と会って話したい。
勢いをつけてベッドから飛び起きると、風呂に入るため、俺は部屋を出て下の階へとおりていった。

131 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/09/06(土) 22:26 ID:KypbFeus
俺の部屋を出て行っためぇちゃんは、早足で自宅に戻り、すぐに自室に籠ってしまった。
叔母さん―――めぇちゃんのお母さんが、自分の子がいつもと違うのを察知して部屋の前に駆けつけたが、
内側から鍵をかけられてしまったため、直接面と向かって話すことができなかった。
めぇちゃんは2、3返事をして叔母さんを適当にあしらい、それからすぐベッドにうつ伏せに寝転んでしまう。
電気もつけないまま、その状態で十数分が経過した。

(めぇちゃんは来なくていいんだよ!)
枕に顔を突っ込みながら、つい先程言われた一言を思い出す。
自分の「お兄さん」と自称する隣の大学生とは、中学時代からの付き合いだ。
これまでお互い何度も喧嘩して、その度に仲直りしてきたから、今回のようなことがあっても慣れっこだ。
しかしめぇちゃんの胸には、どうしてか悔しさが残っていた。
恥ずかしい気持ちを我慢して、素直になって、いつもより自分を押し出してみた。
今まで使うことのなかった「デート」という言葉を、勇気を出して初めて声に出してみた。
だがその言葉は届かず、その想いは無残にも切り捨てられてしまった。きっと嫌われたわけではないけれど、
自分が何かの後回しにされてしまったことが、彼女の何よりの悔しさだった。

胸の奥が締め付けられ、嗚咽が漏れ、やがて涙が流れ落ちる。
先程この部屋に入ってから、こうして静かに泣くのは数えて何度目だろう。
それから2、3分してめぇちゃんは泣き止み、涙を枕で拭うと、おもむろに脇にある携帯に手を伸ばした。


「・・・もしもし、上原さん。明日、予定空いてる?」

132 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/09/07(日) 22:04 ID:uqq1f5cA
「もうらめ、トリーズナーくん。あたし一人じゃ歩けない・・・」
「はいはい、俺が支えてあげますから。次は程々にしましょうね・・・はぁ〜・・・・・」
夜の繁華街を、雨が降る中、相合傘で歩く二人の男女。
俺と有希先輩は、先程とある飲み屋から出てきたところ。個人的にはこのまま帰宅でいいのだが、
俺との時間が名残惜しいのか、「もう一軒寄ろう」と先輩が発言したため、仕方なく別の休める場所を探しているのだ。
無論、また飲み屋を選ぶつもりは毛頭ない。適当にファミレスでも見つけて入ろうかと考えている。

「やん、どこ触ってんのよ」
「やらしいとこはどこも触ってませんよ。それよりもっとちゃんと歩いてください」
「うそだぁ、あんた今胸触ったでしょ?あたしの背中に回してる手でさり気に」
「気のせいです。俺がそんなことする男じゃないって、知ってるでしょ?」
「あらそう。じゃあしてみる?^^」
言いながら先輩は体を密着させ、脇腹にある俺の右手をとって、自分の右胸に押しつける。
「ひゃあぁっ!///」
思いがけない先輩の行動に、俺は反射的にたじろいでしまった。
「せっ、先輩!いきなり何するんですか!?///」
「女の子の胸触るのすら、初めてみたいね^^」
「おっ、俺は別に・・・///」
「ふふ。相変わらず純朴なままでかわいいわ^^」
「うぅ・・・///」
普段めぇちゃんのような女の子をかわいいと思う反面、女性にかわいいと言われることにあまり慣れていない俺。
どうリアクションしていいかわからず、柄にもなく顔を赤くしてしまったため明後日の方向を向いた。

133 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/09/07(日) 22:10 ID:uqq1f5cA
時間は戻って、16時過ぎ。
定刻通りとはいかず、少し遅れてのS駅到着となった俺。
改札口へ足を運ぶと、既に有希先輩が腕を組んで待っていた。
「遅い!こういう時、女を待たせてどうするのよ?」
「ああ、すいません・・・」
今日一日、家の手伝いに明け暮れていて、15時半近くまでごたごたしていた。
汗だくのまま直行するのも何なので、いったんシャワーを浴びてから家を出たため、少し遅くなってしまったのだ。
「まあいいわ。とりあえず電車に乗りましょ」
「早速行きますか」
二人は切符を買い、改札を通ってホームへと降りていく。
数分と待たずに電車が来たため、それに乗る。休日にもかかわらず、意外にも席は空いていた。

S駅を通る路線は、高校時代、先輩が通学の際に利用していたものらしい。
県立のO高校に通っていた先輩は、毎日この路線で片道約20分かけて通学していたという。
今回の目的地は二つ先の駅でこれまた数分としないが、それまでの間、先輩は高校時代のことを色々話してくれた。
中学時代やっていたテニスは高校でも続けていたとか、あまり勉強しなかったため成績は悪かったとか、
友達とやった馬鹿なこととか、片思いだった男子生徒との顛末とか―――。
高校時代の思い出を話している時の先輩の顔は、とても晴れ晴れしくて、目はきらきらしていた。
その様子を見て俺は、何か言い知れぬ孤独感を覚えるとともに、自分もこんな高校生活を送りたかったとつくづく感じた。

134 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/09/07(日) 22:16 ID:uqq1f5cA
S駅から二つ先の駅、A駅に到着。
改札口を出て、さて何をするものかと訝っているところ、
「ではこれより私とトリーズナー君のデートを始めます。
というわけでトリーズナー君、まずは私の買い物に付き合って」
先輩は爽やかな笑顔で、さらっと言って流した。
「で、デートって・・・///」
「あら、もしかしていきなりこんなこと言われて動揺してる?^^」
「いえ、別に俺は・・・///」
「そう。じゃ、これでいいわね^^」
言いながら俺の左腕に、自分の右腕を回す先輩。二人の体が密着する。
「こ、この状態で、行くんですか・・・?///」
「当たり前じゃないの。さ、あそこ行きましょ」
そう言って先輩は、西口ロータリー先に見えるショッピングモールを指差す。
ひとまず恥ずかしさは我慢して、二人でそこまで歩いていった。

ショッピングモールに着いて早々、先輩は洋服売り場へと俺を連れて行く。
別行動じゃ駄目なのかと聞いたが、案の定駄目の一点張り。
女物の服がずらっと並ぶ場所に同行したところで、俺はどうすればいいかわからない。
「あの〜。先輩、俺はどうすれば・・・」
「ねぇねぇトリーズナー君、これ似合うと思う?^^」
早速先輩は洋服を一枚取り、自分の体に重ね合わせてみる。
ていうか何だこの非常にありがちな展開は。ここは順当に「うん、似合ってるよ」とでも言っておけばいいのか?

135 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/09/07(日) 22:18 ID:uqq1f5cA
「ま、まあ似合ってるんじゃないですか?よくわかりませんけど・・・」
「もう、何よその曖昧な返事。もっと素直に言いなさいよ」
素直って言ったって、俺にはその服が先輩に似合ってるのかそうでないのか、わかりやしない。
「ファッションに関してずぼらな人間に、あまり良い感想を期待しないでください・・・」
「私はそういう意味で言ったんじゃないの」
「えっ・・・?」
「トリーズナー君は、私のこと、どう思ってる?」
核心に迫るような言い方だが、しかしそこまで深刻に考えなくてもいいことだろう。
思いつくままに、単純明快な言葉で、俺は言う。
「先輩は、明るくて、凛々しくて、綺麗な人だと思います・・・」
「私は綺麗なの?」
「はい・・・///」
「これを着れば、もっと綺麗になる?」
「はい。もっと綺麗に、なります・・・///」
「そう。じゃあこれ、買うわ。はい、トリーズナー君」
言いながら先輩は、持っていた服を俺に渡す。
「えっ、どうして俺に・・・」
「当然じゃない。あなたが似合うと思ったから、あなたが私にプレゼントするのよ^^」
「はいぃ!?」
先輩の発言にびっくりする傍ら、ふと値札を見てみると、万まではいかないものの、
ほぼそれに近い金額が書かれている。幸い、買えるだけの金は持ってきたが・・・。
「・・・鬼だ(ボソッ」
「ん〜、何か言った〜?」
「あっ!・・・いえ、何でもないです・・・・・」
中学時代からそうだったが、本当に一癖も二癖もある人である。はぁ〜怖い怖い・・・。

136 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/09/07(日) 22:25 ID:uqq1f5cA
洋服に関して、俺の出費はそれだけだったからよかったものの、その後も先輩は自分に似合う服を探し続けて、
結局1時間以上もその店に費やしてしまった。無論、先輩が買ったその他の服は俺が荷物係として持つこととなった。

時計が18時を回ろうとする頃。またもや先輩の発言で、近くにあるアミューズメント施設に立ち寄ることに。
ボウリングやダーツなどで遊んだり、テニスやバッティングで軽く汗をかいたりして、まあまあ充実した時間を過ごした。
特に後者。先輩と一緒にテニスで勝負をしたが、俺は経験がないためまるで駄目で、案の定先輩に惨敗してしまう。
しかしバッティングのほうは、先輩は殆ど素人同然だった。逆に俺は140km/hを超えるマシンのボールも軽々打ち返し、
それを見て先輩は感動したようで、打ち終わった後にやたら俺のことを褒めちぎっていた。

19時過ぎ。今度は俺の提案で、駅東口のほうにあるバーに寄って、軽くお酒を飲むことに。
こういう雰囲気の場所でなら、色々込み入った話もしやすいだろう。
そう思って入ったのだが、どうにもその雰囲気が普通のバーとは違う。
店内には大小複数の液晶画面があり、それに映し出されたサッカー中継に客の殆どが見入っている。
そう、この地域のサッカーチームのサポーターが集まるバーだったのだ。
味方チームに点が入ると、店内は熱狂の嵐。こっちが込み入った話をしようにも到底できない。
それどころか、先輩は他の客と混じってお酒の入ったグラス片手に応援する始末。
応援で意識が昂っているのか、先輩の飲むペースは尋常でなく、しまいにはべろんべろんになってしまう。
自力で歩けないというので、肩を貸してあげながらも何とか店を出ることができた。

137 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/09/07(日) 22:56 ID:uqq1f5cA
A駅前の繁華街にあるファミレスで、ドリンクバーを飲みつつおしゃべりする二人の女の子。
「はぁ〜マジむかつくぅ〜・・・」
「めぇ、お前そのへんにしておけよ。・・・まあ酒飲んでるわけじゃないんだが」
「たまにはトリーズナー君のためにと思って、こっちから外出に誘ったのに。
 なのに怒鳴って断られたのよ。ほんと、何様のつもりよ!」
「だからって今日みたいに、うちをお前の野暮用のパシリにするのはどうかと・・・」
「上原さん、大体あなただって、今日9時S駅集合だったはずなのに、
 どうして12時まで寝坊したのよ!?」
「いや〜、実は昨日徹夜で漫画一気読みしてさ・・・」
「ふざけるんじゃないわよ!!」
「あ〜わかったわかった!スイーツ、スイーツおごるから!」
他でもなく、めぇちゃんとむっちーの二人である。
彼女たちは今日一緒に東京の電気街に電車で行った。
目的はめぇちゃんの野暮用―――パソコン関連の部品の買い漁り、である。
本来であれば、これに俺が同行するはずであった。とてもデートといえたものではなかっただろうが、
少なくともめぇちゃんはそのつもりで計画していた。それだけに、あんな断られ方をされたことに対し、怒りを隠せないでいた。

138 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/09/07(日) 23:00 ID:uqq1f5cA
「おいめぇ、あれ、あれ!」
めぇちゃんに胸倉を掴まれているむっちーは、言いながらレジの方を指差す。
「上原さん、そんな古典的なトリックに私が引っかかると思う?」
「違うんだ、そういうんじゃない!」
どうやらむっちー、不意にレジを見た時に何かを見つけたようだ。
しかしそのことに気づかず、彼女が自分を騙そうとしているといつまでも勘違いしているめぇちゃん。
「どうせ私がその方向を向いた隙に・・・」
「いいから見ろっての!!」
じれったくなったむっちーは、両手でめぇちゃんの頭を掴み、強引にレジの方に向けた。

むっちーの胸倉を掴んでいためぇちゃんの両手は、力が抜けてだらんとなる。
「びっくりだ。トリーズナーの奴が、女連れてやがる・・・」
「・・・・・」
「あんな女、初めて見るな。あいつ、いつの間に彼女なんか・・・。
 さてはあの女とデートするために、今日めぇとの約束を・・・おい、めぇ?」
「・・・・・・」
さぞめぇちゃんにとって、衝撃的なシーンだったことだろう。
彼女たち二人が店内にいる時、折悪く俺と有希先輩の二人が同じファミレスに入店してしまったのだ。
「・・・めぇ。気の毒だが、トリーズナーはあの女と・・・・・」
「・・・・・そういう、ことだったのね・・・・・・・」
そう言うと、めぇちゃんは席を立ち、店を出ようとする。
その肩を、一時はむっちーが掴んだものの、
「今日は・・・・・一人に、させて・・・・・・・」
虚ろな表情で言われたため、思わず彼女は掴んだ肩を離してしまった。
めぇちゃんは肩を落とし、下を向いたまま店内を歩いて出て行った。

139 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/09/08(月) 15:56 ID:TaLTjksw
帰りのホームルームが終わり、放課後となった聖桜学園。
生徒である女の子たちが思い思いに散らばる教室で、めぇちゃんは机に座り、鞄の中に荷物を入れている。

「め〜ぇ、このあとどうするんだ?」
ユニフォーム姿のむっちーが話しかけてきた。昨日のこともあってか、今日彼女はめぇちゃんに一言も話していない。
おそらくめぇちゃんのことが心配で、声をかけてみようと思ったのだろう。しかし、
「悪いけど、今日はもう帰らせてもらうわ」
「そんなこと言わずにさ、生徒会室行こうぜ。そろそろ学園祭も近いんだし。
 うちはソフト部で後輩の指導してから行くから。というわけで先行っててくれないか?」
「ちょっと、気分が悪い。だから今日は、ごめんなさい」
むっちーの顔を見ることなく、そう話すめぇちゃん。声のトーンもいつもより低い。
何かに思い悩むと、彼女はいつもこんな風になり、自分の殻の中に閉じこもってしまう。
去年夏休み前、彼女が生徒会に入る時のいざこざを最後に殆どその兆候を見ることはなくなったが、
今回は彼女にとって最も親しい男友達である俺のことで、相当なショックを受けたようだ。

140 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/09/08(月) 16:01 ID:TaLTjksw
だからといって、むっちーは引き下がれなかった。
大切な友達であるめぇちゃんのことを、放っておけなかった。彼女は話題を、例のことに変える。
「あのこと、まだ気にしてるのか?」
「・・・・・・」
「大丈夫だって、あれはお前の誤解だよ。
 トリーズナーはあの女と付き合っちゃいない。あれはあいつの中学時代の先輩らしいんだ」
「・・・・・・・・」
真実を、ありのままめぇちゃんに伝えようと努めるむっちー。
実際、俺と先輩が付き合っていないというのは紛れもない真実である。彼女は言葉を続ける。
「なんか数年ぶりに再会して懐かしいからってんで、記念に買い物したり、酒飲んだりしたんだとよ。
 まあそれでお前の約束を断ったのは許せんが、でも二人は恋人っていうわけでは・・・」
「・・・私がトリーズナー君のこと、好きだとでも言いたいの?」
「えっ、そうなんじゃ・・・?」
「好きなわけ、ないでしょ・・・・・!」
言いながらめぇちゃんは立ち上がり、鞄を持って早足で教室を出て行く。
「あっめぇ、ちょっと待てって!」
そう口にはしたものの、実際にめぇちゃんを止めようとしなかったむっちー。
彼女もまた昨日のことで、とても口にすることはできない出来事を、胸の奥に秘めていた。

「さすがにあのことは、言えないよな・・・・・」


夕暮れ時が近くなり、窓から差し込む陽の光が、段々と傾いてきている。
開け放った窓からは、夏の終わりの生温い南風が、教室の中に吹き込んでいた。

141 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/09/09(火) 01:01 ID:5yVZp9Vk
午前0時を過ぎたところで風呂に入り、寝巻きを着て早々にベッドに寝転ぶ。
明日は天気予報で快晴なこともあって、少し心を入れ替えるため、バイクでツーリングに行くことにした。
従って朝早くに起きるため、いつもより早めに眠りに就こうというわけだ。

暗い部屋の中、日曜の夜―――あの後に起こったことを思い出す。
俺と有希先輩の二人がファミレスに入店した時、よもやめぇちゃんとむっちーの二人が同じ店にいるとは思わなかった。
めぇちゃんは俺たち二人の姿を見て、入れ違いで一人で去っていってしまった。
確かにめぇちゃんとの約束を断って、先輩と遊んでいたことも、彼女がそうした理由の一つだったかもしれない。
しかし本当の―――もっと深い理由が、彼女自身の心の中にあるのではないかと、俺は思っている。

思いのほか、もう睡魔が襲ってきた。
明日はきっと、爽やかな陽気になるだろう。山の方に行って、きれいな空気を吸ってこよう―――。

142 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/09/09(火) 06:15 ID:5yVZp9Vk
「いらっしゃいませ。お煙草はお吸いになりますか?」
A駅前繁華街のとあるファミレス。
休日ということもあって結構な混み具合だが、そうレジの店員に聞かれたところ、喫煙席は空いているようだ。
「ええ」
「ではあちらへどうぞ」
案内された通り、俺と有希先輩の二人は喫煙席へと向かう。
案の定あまり人はいないものの、地元のヤンキーと思われる集団が二つ先のテーブルに4、5人たまっている。
席に座った時、あからさまにそいつらの視線を感じたのが不快極まりなかった。
先輩に見とれているのか、それとも俺を見て内心で毒づいているのか―――言葉にしないのでわからないが、
とかくそんな感じで、奴等は俺たち二人のほうを見て、時々クスクスと笑っていた。

「ドリンクバー2つ、あとチョコレートパフェで」
テーブルの脇にあるボタンで店員を呼び出し、とりあえず注文しておく。
ドリンクバーはセルフサービスなので、俺が先輩の分も含めて専用のグラスにジュースを入れて持ってきた。
「はい先輩。いっぱい飲んで、いっぱい出して、酔いを冷ましましょう」
「何気に失礼なこと言うわねぇ。つーか何でファミレスなわけ?」
「そりゃあなた、そんな状態で更に飲ませるわけにはいかないでしょう。
 ほらパフェもおごりますから、どうかお気を鎮めてくださいな」
「ちぇっ、しょうがねぇなぁ・・・」
普段お淑やかな「振り」をしている先輩は、酒が入るとたちまちがさつな女に豹変するらしい。
声にドスを利かせた、男勝りな口調。二つ隣のヤンキー共のお眼鏡には、どうやらかないそうもないみたいだ。

143 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/09/09(火) 06:15 ID:5yVZp9Vk
「ところで、先輩」
「ん〜?」
「今日はどうして、俺と一緒に・・・」
昨日から聞きたかったことを、今ここでようやく聞ける。
単純な理由や思いつきで、今日俺を呼んだのではないことは確かなはず。
「会いたかったから会った、じゃ理由にはならない?」
「それでもいいですけど・・・何か他に理由があるんでしょう?」
先輩はどうなのかわからないが、彼女と決別したのち、俺は二度と彼女に会うまいと、自分の心に誓った。
だからこれまで数年間、二人は顔を合わせることも、言葉を交わすことも、ただの一度もなかった。
なのにどうして昨日、先輩は図書館で俺に声をかけてしまい、そして今日、俺をデートなどに誘ったのだろうか―――。

「高校を卒業してから、私、地方の国立大学に下宿しながら通ってたんだ」
先輩が初めて、高校卒業以後のことについて口にする。
その顔は、相変わらず酒に酔って赤々としているが、しかし表情は至って落ち着いていた。
「大学は、高校と比べると自由すぎてさ。逆に疲れちゃった。
 ただ講義を受けて、終わったら友達とおしゃべりして、お酒飲んで、バイトして・・・そんな毎日」
「・・・・・」
「男と付き合ったこともあるけど、別に今すぐ結婚するわけじゃないから色々とっかえひっかえやったし、
 そもそもお互い体だけ満足したらあとはポイだったから、どちらにしろ長くは続かなかった」
「・・・・・・・」
「今大学院の修士課程で、私も論文作成中なんだけど、どうにも作る気力が湧いてこなくて。
 実家に帰ったら、何か見えてくるかなと思って、帰ってきた。そしたら、トリーズナー君に逢った」

144 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/09/09(火) 06:16 ID:5yVZp9Vk
「今更俺に、何を求めるっていうんですか・・・」
「えっ?」
「所詮、俺はあなたの弟に過ぎなかったんですよ」
「・・・・・」
身内に兄弟、姉妹のいなかった先輩は、自分を姉のように慕う俺に対して、本当の弟同然に接してくれていた。
俺は「頼れる年上のお姉さん」としての先輩が、好きだった。その身も、その心も、独り占めにしてしまいたかった。
でも、その想いは叶わなかった。俺は彼女の「弟」としての壁を、越えられなかったのだ。

「ごめんね。やっぱり私、弱い女だ」
「・・・・・・」
「あの時、トリーズナー君の好意を素直に受け取らなかったから、こんな体たらくになっちゃったんだ」
「俺が悪いみたいに聞こえるのは、気のせいですか」
「そうじゃない。本当に全部、私の所為なんだ。
 私のほうからあなたを遠ざけておいて・・・今では心から、後悔してるわ」
「そんなこと、今更言われたって・・・・・」
返す言葉がない。もうあの頃には、戻れやしないのだ。
俺たちは赤の他人として、別々の道を行かねばならないのだ。過去を振り向かずに、生きていかねばならないのだ。

しばらくの沈黙の後、先輩がおもむろに口にする。
「トリーズナー君。私と、恋人としてやり直さない?」

145 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/09/09(火) 06:17 ID:5yVZp9Vk
一瞬、心が舞い上がったが、すぐに平静に戻った。
先に言った通り、俺と先輩の関係は、もう昔に戻すことができない。
ましてやそれ以上の関係になるなど、どだい無理な話なのだ。
俺たちは過去に決別した。その時に二人の関係は、永遠の終わりを告げた。
どちらが悪いかなんて、随分昔のことだから、もはや忘れてしまった。
とにかく「やり直す」などということは、俺の心が絶対に許さない。
頑なな性格なのは承知の上だし、言うなればそれこそが今の俺なのだ。

「俺、先に帰ります。お金は全部レジで払っておきますから、ゆっくりしていって下さい」
言いながら会計のレシートを手に取り、席を立つ俺。
「待って、トリーズナー君!私たち、やり直しましょう」
「お気持ちは有り難いんですが、それにはお答えできません」
先輩の制止をよそに、俺はレジに足を運び、お金を払うと釣銭を受け取らず足早に店内を出て行く。
「トリーズナー君!!」
店を立ち去ろうとする俺の背中を、先輩は覚束ない足取りで必死に追いかけていった。

「大変お待たせいたしました。チョコレートパフェに・・・あれ?」
先程俺が頼んだパフェを持ってきたウェイトレスは、もぬけの殻になったテーブルを見て、ただ首を傾げるだけだった。

146 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/09/09(火) 06:19 ID:5yVZp9Vk
この店に入る前まで降っていた雨は、俺が店を出た頃には既に止んでいた。
濡れたアスファルトに車のヘッドライトが反射して、余計に眩しく感じる。
辺りを見れば、会社帰りのサラリーマンやOLの姿。いくつかの不良集団も、大股広げて町を闊歩している。
こんなところで油を売っていると、折角固めた決意も水の泡になってしまいそうだ。
早いところ家に帰って、今日はすぐ寝よう―――俺は駅に向かって、歩を進めた。

数歩歩いたところで、左腕に誰かが抱きついた。
「お願い。お願いだから待ってよ、トリーズナー君・・・」
「・・・・・・」
「今度はあなたのこと、突き放さないから・・・」
「・・・往生際が悪いですよ、先輩」
つい本音が出てしまった。しかし言った後で後悔など、もはやしない。
「大丈夫よ、今度は。付き合ってみて少し経てば、きっとトリーズナー君も納得するはず」
「生憎ですが、俺はそこまで現金な男じゃないんで・・・」
「トリーズナー君に煩わしく思われないように、私、努力するから!」
「そんな台詞を口にするまでに、あなたは成り下がりましたか」
言いながら、左腕に縋る先輩の体を心無くも振り払う。
「トリーズナー君・・・?」
「俺はお淑やかで、でもその実乱暴で、だけど凛々しくて綺麗なあなたのことが、心から大好きでした。
 俺と別れた後も、ずっとそうあってほしいと、今まで思い続けてきました」
「・・・・・・・」
「でも今のあなたは違う。今のあなたは、何の個性も、何の美しさも、何のバイタリティーもない。
 そして女性としての強さも、意志も、優しさも、全て失ってしまっている」
「・・・・・・・・・」
「今の俺にとって、今のあなたは、どんな存在でもありません。そこらにいるただの女性も同然です」
俺の口から自然に出た言葉は、完全に先輩に引導を渡す形となった。
それを聞いたきり先輩は、無言のまま俯き、その場に立ち尽くしてしまった。

147 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/09/09(火) 06:19 ID:5yVZp9Vk
これで全てが終わったと思い、俺は踵を返して再び駅へと歩を進めようとした。
その時―――。

―――突然のことに、刹那、何が起きたのかわからなかった。
気が付いた時には、俺と先輩の唇は、重なり合っていた。
熱く火照った、先輩の唇。そのまま吸い付いて離れず、俺は意識が朦朧としていた。

はっと我に返った瞬間、無意識に先輩の体を両の手で突き放す。
まだ恍惚の残る先輩の表情に反し、俺の目はそんな彼女を鋭い目で睨み付ける。
二人の間に、言葉はない。俺は右の手を平らにして、おもむろに腕を上げて頭の横に持っていく。
俺にされようとしていることに覚悟ができていたのか、先輩は恐れおののくことなく、微動だにせず構えていた。


(パシーン!!)
甲高い音が辺りに小さく鳴り響くが、俺の右腕は振り下ろされていない。
俺ではない別の手が、先輩の頬を引っぱたいたのだった。
「むっちー!?どうして・・・?」
「さっきからお前らの一部始終、ずっと見てたぜ」
先輩の頬を、どうしてか突然現れたむっちーが叩いた。
彼女は先輩のほうを再び見て、厳しい口調で言う。
「おいあんた!話を聞いたところ、どうやらトリーズナーの彼女じゃなさそうだな」
対して先輩も、突然知らない人間に頬を叩かれたショックで、涙ぐみながらもむっちーに言い捨てる。
「あっ、あんたこそ、一体何なのよ!?」
「うちはお前らが来る前から、連れと一緒にあのファミレスに居てな。
 まあその連れは途中で帰っちまったんだが、うちだけは一人でお前らの行動を今までずっと見ていたってわけよ」
連れ、という言葉に個人的に引っかかった俺は、試しにむっちーに聞いてみる。
「ちょっと待ってむっちー、連れってもしかして・・・」
「めぇのことだ。つーかお前は今黙っとけ」
さっきのファミレスに、むっちーどころか、めぇちゃんが居たなんて。全然気づかなかった。
めぇちゃんが先に帰ってしまった理由は・・・予想するまでもないことだから、今は彼女のことは考えずにいよう。

148 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/09/09(火) 06:20 ID:5yVZp9Vk
「そうやって親しそうに話してるのを見たところ、あなたたち二人、少なくとも友達以上の関係ね」
何を思いついたのか、先輩は不敵な笑みを浮かべながら、俺たちに聞いてくる。
「逆に聞くが、あんたはトリーズナーと、どういう関係なんだ?」
「むっちー、この人は澤口有希さんといってね、俺の中学時代の先輩で・・・」
「そしてトリーズナー君の、彼女で〜す♪」
「せっ、先輩!?」
待ってましたとばかりに口を挟む先輩。しかも言っていることは真っ赤な嘘だ。
この期に及んで、何という狡猾さだろう。さっきの俺の台詞、一部撤回しなくてはならない。

「むっちー、今先輩の言ったことは嘘だから・・・」
「だからお前は黙っとけ!・・・とまあトリーズナーの供述通り、あんたの今の発言は非常に疑わしい。
 少なくとも今あんたが言った肩書きには“元”が付くはずだ。最近のトリーズナーに浮ついた話は全くないからな」
いやそれも違うのだが・・・。言いたいことを言えない俺をよそに、二人の舌戦は続く。
「ふふ、さてどうかしらね。それより私の質問にもちゃんと答えてくれる、むっちーさん?」
「むっちーさんじゃない、うちの名前は上原むつきだ!」
「そう。それじゃ上原さん、あなたはトリーズナー君とどういう関係なの?」
「うちとトリーズナーは、かけがえのない仲間だ!!」
決まった、とばかりに握り拳を作り、堂々とした面持ちで台詞を言い放ったむっちー。しかし、
「あははっ、どうせそんな程度のことを言うと思ってたわ。あなた、汗臭そうだし」
「失礼な、ちゃんと毎日風呂入っとるわ!」
「うふふ。でもそしたらどうしていきなり私にビンタしたのかしら?
 私とトリーズナー君がイチャイチャしてるのが、そんなにあなたの友情を傷つけたの?」
「うっ、そ、それは・・・」
「そういうの、嫉妬っていうんじゃないの?^^」
嫌にニヤニヤしながら、むっちーを言葉責めにする先輩。
言い争いで先輩に勝てるのは、同じ女性の中でもそうそういないというのは、彼女の後輩である俺が一番よく知っていた。

149 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/09/09(火) 06:21 ID:5yVZp9Vk
先輩の言葉責めに、思わず下を向いて黙りこくってしまうむっちー。
ここぞとばかりに、絶え間ない先輩の応酬が炸裂する。
「あなたがトリーズナー君に抱いてるのは、友情なんかじゃくて好意なんじゃないの?」
「・・・・・・」
「いいわねぇ。男勝りな女子高生、その小さな胸に抱くは年上のあのお兄さんへの恋心、って感じ?」
「・・・・・・・・」
「ああしかし、その想いは儚くも散りゆく。
 そして胸には私への嫉妬のみが空しくも残り、ただその顔は泣き濡れるばかり、な〜んちゃって^^」
「・・・・・・・・・・」
「結局私と争ったところで、あなたはそういう運命を辿るのよ。
 まあそれこそ人生ってものよ。大人しく受け入れなさい。ふふふふふ^^」
もう駄目だ、こてんぱんに言い負かされている。
さすがのむっちーも、もう限界だ。そろそろタオルの投げ時だろう。


「・・・・・前言、撤回だ」
「なに〜、よく聞こえな〜い」
「じゃあ目ぇかっぽじってよく見てろ!!」
そう先輩に対して叫ぶと、今度はのしのしと俺に近づき、
「トリーズナー、すまん!」
「えっ、ちょっ、むっちー!?」
俺に体を密着させると、半ば強引にキスを敢行した。

150 :トリーズナー ◆BMvfKUPw :2008/09/09(火) 06:23 ID:5yVZp9Vk
「ん〜ん、ん〜〜〜!!!!///」
先程の先輩のキスとは違い、強引にこちらの口を開けて舌を入れてくる。
互いの舌と舌がねっとりと絡み合い、中で唾液が入り混じっている。
重なり合う二人の口元から、くちゅ、くちゅといやらしい音が発せられる。
次第にまたしても意識が朦朧として、口の力がなくなり、やがてだらしなくも唾液が垂れ滴った。

「はぁ・・・はぁ・・・・・///」
キスを終えると、むっちーは口元を拭い、それから先輩のほうを向く。
「これで、どうだ・・・・・///」
「あ・・・・ああ・・・・・・・・」
どうやら先輩、ここまで自分に食い下がった女性は初めての様子。
「仲間のためなら、こういうことだって、うちは惜しまないんだよ///」
「嘘だ。あなた、トリーズナー君のこと・・・・・」
「そういう友情も、あるってもんよ!///」
興奮のあまり、ほっぺたを真っ赤に染めながらも、むっちーは堂々と豪語する。
それから彼女は半ば放心状態の俺を肩に背負って、
「それじゃ、こいつの後処理はうちがしておくから」
言いながら、先輩に背を向ける。
「後処理って、まさかどっかに連れてっていやらしいことするんじゃ・・・」
「馬鹿言え、このまま帰宅するんだよ!///」
全くもってそんな気はなかったため、先輩にそう聞かれ、思わず動揺してしまうむっちー。
しかし彼女の背後にいた先輩には、むっちーの背中が輝いて見えた。
「澤口さん、って言ったっけ」
「はい・・・?」
「あんたと喧嘩して、ちょっと楽しかったよ。じゃあな」
言い残し、むっちーは動けない俺とともにその場を去っていった。


自分一人だけが取り残されてしまった先輩。
おもむろに夜空を仰ぐと、再び雨が降り出してきている。
こんなところで、自分は一体、何をしていたのだろう。
そう思うと、不意に笑いがこみ上げてきた。
しばらく声に出して笑った後、突然脚の力が抜け、今度は涙が出てきた。
そのまま先輩は、雨が降りしきる中、繁華街の歩道で一人ぽつんと座り込んで泣き続けた。
今日の出来事を全て思い浮かべて、切なくなって、先輩はただ大声で泣き続けていた。

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